憎むのでもなく、許すのでもなく――ユダヤ人一斉検挙の夜
(原題:Sauve-toi, la vie t'appelle)
ボリス・シリュルニク 著 林昌宏 訳
ISBN:978-4-905497-19-6、四六判上製、350頁、本体価格2,300円、2014年刊
1944年、フランス・ボルドー地方で、ナチスドイツによるユダヤ人一斉検挙が行われた。
6歳だった著者は、自分に銃口を向けた大人に叩き起こされ、連行される・・・。トイレの個室の壁をよじのぼり、兵士の目を盗んで脱出し生き延びる。戦後も孤児院を転々とし、貧困生活を乗り越えて、医師になる。
40年間語ることができなかった自らの壮絶な過去を綴った1冊。精神科医の立場から、トラウマをともなう記憶から逃れる方法を分析する。
キーワードは「へこたれない精神」。
世界10か国以上で翻訳刊行され、フランスで25万部を超えたベストセラー。
ユダヤ人迫害についての歴史観や道徳心についてさかんに議論されるきっかけとなった。
「憎むのは、過去の囚人であり続けることだ。憎しみから抜け出すためには、許すよりも理解する方がよいではないか。」(本書より)
【著者】ボリス・シリュルニク(Boris Cyrulnik)
1937年、フランスのボルドーにてポーランド系ロシア移民の子どもとして生まれる。5歳のときに、ユダヤ人一斉検挙により両親を失う。本人も6歳のときにフランスの警察に逮捕されるが、強制収容所へ移送される寸前のところで逃走する。戦後、経済的に恵まれない環境にもかかわらず、猛勉強してパリ大学医学部に進学し、念願の精神科医になる。臨床の傍ら、強制収容所から生還した者たちや、途上国の恵まれない子どもたちの支援活動も行う。学術論文以外にも、一般書を多数執筆している。フランスでは、ベストセラー作家であり、トラウマの権威である。邦訳されているものに『妖精のささやき』(塚原史、後藤美和子訳、彩流社)などがある。
【訳者】林 昌宏(はやし・まさひろ)
1965年生まれ。立命館大学経済学部卒業。翻訳家として多くの話題作を提供。
訳書にベルトラン・ジョルダン『自閉症遺伝子』(中央公論新社)、ダニエル・コーエン『経済と人類の1万年史から、21世紀世界を考える』、ジャック・アタリ『21世紀の歴史』(ともに作品社)、アクセル・カーン『モラルのある人は、そんなことはしない』、ドミニク・カルドン『インターネット・デモクラシー』(ともにトランスビュー)、G.エスピン・アンデルセン『アンデルセン、福祉を語る』(NTT出版)など多数。
【目次】
第一章 ユダヤ人一斉検挙
第二章 悲痛な平和
第三章 耐え難い記憶
第四章 周囲からの影響
第五章 凍りついた言葉
おわりに
訳者解題(林昌宏)
【書評・紹介】
●『読売新聞』(2017年5月14日)「空想書店」で紹介(小川糸氏・作家)
●『日本経済新聞』(2014年4月27日)読書面
“ナチスによる迫害という極限を体験したフランス生まれのユダヤ人の自伝。精神科医として自らの記憶に意味を与え直すことによって、密度の濃い読み物になっている。”
●『朝日新聞』(2014年4月13日)読書面
“東アジア国家がいま、政治の道具として語る戦争に辟易していたとき、この本に出会った。(中略)…深い心の傷を抱えた著者が、『憎むのでもなく、許すのでもなく、理解する』の境地にたどり着いたのは、聞く力をもつ社会があってのこと。その包容力、戦争に限らず、暴力の連鎖を押さえるかぎに思える。”(吉岡桂子氏・朝日新聞編集委員)
●『サンデー毎日』(2014年4月20日号)「今週のイチオシ」
●『ふらんす』(2014年6月号)
“本書は、著者個人の経験と記憶の旅路であると同時に、トラウマ的経験と記憶をめぐる分析でもあるがゆえに、彼の到達点は現代の問題にも多分に示唆的である。”(安原伸一朗氏・日本大学准教授)
●『週刊読書人』(2014年5月30日)
“何故著者の心はトラウマ化を免れたのか。この重要な問題の考察を丹念に一貫持続させているところに、他のホロコースト生存者の「自叙伝」や「回想記」には見られない、本書の真骨頂があるといえよう。(中略)ホロコーストとトラウマをめぐる革新的な一書ではなかろうか。”(芝健介氏・東京女子大学教授)
●『聖教新聞』(2014年5月10日)
“本書には、心の傷についての深い理解とトラウマをはねのける「へこたれない精神」についての記述が随所にある。本書の原題は『自分を救うのだ、人生が君を呼んでいる』―「凍った言葉」をとかし、人生を喜びに変えようという願いである。”