過去と向き合う――現代の記憶についての試論
アンリ・ルソー 著
剣持久木/末次圭介/南祐三 訳
ISBN:978-4-905497-87-5、 四六判上製、330頁、本体価格3,500円、2020年刊
集合的記憶、記憶政策、記憶のグローバル化の分析をつうじて、歴史認識問題に挑む
「記憶」という言葉が氾濫している。過去を伝える「伝統」や「歴史」が後景に退き、記憶があらゆる集団的アイデンティティを生み出し続けており、近年では社会的要求や公共政策にも反映されている。本書において、集合的心傷の記憶史研究のパイオニアの一人である歴史家アンリ・ルソーが取り組んだのは、このような現象を理解するためには、フランス、ヨーロッパを超えて世界規模でグローバルに考察することが、いかに重要であるかを示すことである。ホロコースト(ショアー)に代表されるカタストロフの記憶を維持するために現代世界は莫大な投資をしてきたが、それでも悲劇や大規模暴力の再発を防ぐに至っていないからである。
【著者】アンリ・ルソー(Henry Rousso)
1954年生まれ。サン・クルー高等師範学校卒業、1981年から現代史研究所(CNRS-IHTP)に勤務、1994年から2005年まで所長を務め、2000年にはパリ政治学院で大学教授資格Habilitationを取得。
国立科学研究センターCNRS特任教授。
主著に、Le Syndrome de Vichy : 1944-198…, Le Seuil, 1987, La Dernière Catastrophe, Paris, Gallimard,2012.
【訳者】
剣持久木(けんもち・ひさき)
1961年生まれ。上智大学大学院文学研究科史学専攻博士後期課程単位取得退学。
静岡県立大学国際関係学部教授
主著に、『記憶の中のファシズム――「火の十字団」とフランス現代史』(講談社、2008年)、『越境する歴史認識――ヨーロッパにおける「公共史」の試み』(岩波書店、2018年)。
末次圭介(すえつぐ・けいすけ)
1979年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(専門:アルザス現代史)。
駐日アルジェリア大使館勤務、関東学院大学非常勤講師を経て、現在国際協力関係を中心とする仏日・英日の通訳・翻訳者。
南 祐三(みなみ・ゆうぞう)
1979年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科史学(西洋史)専攻博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。
富山大学人文学部准教授。
主著に、『ナチス・ドイツとフランス右翼――パリの週刊紙『ジュ・スイ・パルトゥ』によるコラボラシオン』(彩流社、2015年)、『新しく学ぶフランス史』(共著、ミネルヴァ書房、2019年)、リチャード・J・エヴァンズ『力の追求――ヨーロッパ史1815-1914』(共訳、白水社、2018年)。
【目 次】
序 章 酸っぱい葡萄
第Ⅰ部 争いをもたらす過去
第1章 欠如に直面して
第2章 史料あるいは欠如の探求
第3章 分析対象としての歴史
第Ⅱ部 フランスの国民的記憶について
第4章 第五共和政下の記憶に関する政策
第5章 二重の負荷――ヴィシーとアルジェリア
第6章 レジスタンスとレジスタンス主義
第7章 フランスにおける否認主義の根源
第Ⅲ部 国境を越えた記憶
第8章 過去を裁く――アイヒマン裁判
第9章 ヨーロッパにおける負の記憶
第10章 記憶のグローバル化
【書評・紹介】
●『朝日新聞』(2020年12月5日)、評者:戸邉秀明氏・東京経済大学教授
●『図書新聞』(2021年3月13日号)、評者:西山暁義氏・共立女子大学教授
●『公明新聞』(2021年1月25日)、評者:福井憲彦氏・学習院大学名誉教授