拷問をめぐる正義論――民主国家とテロリズム

ミシェル・テレスチェンコ 著 林昌宏 訳
ISBN:978-4-905497-65-3、四六判並製、290頁、本体価格2,800円、2018年刊

民主的な社会において拷問は許されるのか
9.11後のアメリカで議論が重ねられてきた「強制尋問」をめぐるさまざまな言説を詳細に検討し、
「人間らしく暮らせる」世界のありかたを探る。


【著者】ミシェル・テレスチェンコ(Michel Terestchenko)

1956年、ロンドン生まれ。パリ政治学院卒。哲学博士。現在は、ランス大学で教鞭をとる。
最新刊に、Ce bien qui fait mal à l'âme : La littérature comme expérience morale(2018年。『魂を傷つけるこの善――道徳体験としての文学』未邦訳)がある。他に、L'ère des ténèbres, 2015, Leçons de philosophie politique moderne, Les violences de l'abstraction, 2013など多数。
また、『ル・モンド』紙をはじめとする一般紙に、政治や民主主義に関する論説を数多く寄稿する。
本書が初の邦訳書となる。
 【訳者】林 昌宏(はやし・まさひろ)
1965年名古屋市生まれ。立命館大学経済学部卒。翻訳家。
訳書にボリス・シリュルニク『憎むのでもなく、許すのでもなく』、同『心のレジリエンス』、マリー・ドゥリュ=ベラ『世界正義の時代』(ともに吉田書店)、ダニエル・コーエン『経済成長という呪い』(東洋経済新報社)他多数。


【目次】
序 拷問という難題
   拷問は許されるのか
  「最悪を避けるための悪」という理屈に対する回答
第1章 「拷問国家」アメリカの長い歴史
  心理的な拷問に関するアメリカの歴史
  CIAと「マインドコントロール」
  フェニックス計画から「プロジェクトX」へ
第2章 拷問に奉仕する法学者たち
  拷問に関する狭義の解釈
   法学者と詭弁家
  「非合法戦闘員」の復活
   拷問人に対する免責
  二〇〇六年九月:「拷問法」の採択
   法が定める境界線とイスラエル高等法院
第3章 アメリカは世界中で拷問を行なう
   特例拘置引き渡し:モハメッド・ビニャム事件
   「われわれが戦う相手は、テロ国家だ」
  アブグレイブ刑務所、「地獄への入り口」
  「まったく容認できない驚くべき軍法違反」
第4章 時限爆弾が仕掛けられたというたとえ話
   拷問をめぐるリベラルなイデオロギー
  中世風な拷問の正当化と証拠評価システム
   参照になるパラダイム
  テレビドラマ『24』の献身的なヒーロー
第5章 高貴な拷問人
   例外的状況では、何をなすべきか
  マイケル・ウォルツァーが考える「手を汚す」という問題
  アラン・ダーショウィッツは、拷問を合法化すべきと考える
  道徳的ジレンマの解消
  個人の責任という原則を保護する
  緊急避難の状態にある「高貴な拷問人」あるいは「悪魔の証明」
  権力の制御と法の遵守との狭間
第6章 悪は善ではない
   誰しもが自己の役割をもつ
  偽善というよりも純真さ
  悪という感覚を維持する
  法律と道徳
第7章 常軌を逸した寓話
  「時限爆弾が仕掛けられた」という仮定の疑似的な現実主義
  あり得ない条件設定
  テレビドラマ『24』がおよぼす有害な影響
  マキャヴェッリ主義者に対するマキャヴェッリの回答
  危険な思考ゲーム
  国家が罪を犯すことになる
  拷問人の養成
第8章 無益な拷問
   意味のない言葉
  合法的な尋問法
  拷問の象徴的機能
第9章 交渉の余地がない原則に固執する
  原則と例外
  人間愛から拷問するという、誤って権利だと思われるものについて
  蔓延する不安がもたらす社会の脅威
  民主社会は必ずしも「品格のある」社会ではない
第10章 非合法な国家
  拷問は定義できるのか
  拷問によって国の象徴的な基盤は崩れ去る
  敵は「下等人間」なのだから、彼らの社会性が全否定されても構わない
  社会全体を腐敗させる毒
  安全神話



書評・紹介】
●『週刊ダイヤモンド』(2018年10月27日号)、評者:吉田徹氏・北海道大学教授
「・・・哲学者である著者による、古くはアリストテレス、現代ではウォルツァーといったさまざまな哲学者らとの対話、時にこうした先人たちを論破していく小気味よい文章は、難しい問いに対しても明晰な答えを導くことができるという良い手本にもなっている。」
●共同通信配信(2018年8月)、評者:本橋信宏氏・ノンフィクション作家