港町巡礼――海洋国家日本の近代
稲吉 晃 著
ISBN:978-4-910590-07-3、四六判並製、320頁、本体価格:2,600円、2022年10月28日刊
島国・日本にとって海外への唯一の窓口であった港。各地の15の港町を巡りながら、近代日本の政治と社会を描く野心的な試み。
「港町からみた政治史」へようこそ!
函館、石巻、小名浜、東京、横浜、湘南、舞鶴、宮津、大阪、神戸、広島、下関、博多、長崎、基隆(キールン)……図版、写真多数。
【著者】稲吉 晃(いなよし・あきら)
新潟大学人文社会科学系(法学部/経済科学部)教授。
1980年愛知県生まれ。2009年、首都大学東京大学院社会科学研究科博士課程修了。博士(政治学)。新潟大学准教授などを経て、2020年より現職。
主著に『海港の政治史――明治から戦後へ』(名古屋大学出版会、2014年。第41回藤田賞受賞)がある。
【目次】
序章 交通革命と港町
ペリー来航/蒸気船航路と電信網の拡充/鉄道の登場と港町の変化/多様化する港町と画一化する近代国家
第Ⅰ部 つくられる国家
第1章 箱館――国際社会に参入する
港町と夜景/西洋諸国の北太平洋進出/幕府による直轄化/幕府による再直轄化/箱館奉行の活躍/開国外交の展開/内乱の発生と新政府の承認
第2章 石巻――国土をつくる
米集散地としての石巻/岩倉使節団の条約改正交渉/全国水運ネットワークの整備/台湾出兵/東北総合開発構想/野蒜築港の失敗/鉄道輸送ネットワーク整備への転換
第3章 横浜――条約を運用する
開港と居留地建設/条約の不平等性/行政権をめぐる問題/法権回復を目指す交渉/首都計画と横浜築港/条約改正交渉の挫折/帝国議会と条約改正
第4章 博多――独自性を保つ
近代博多と福岡士族/自由民権運動の展開/アジアのなかの自由民権/政治的敗者の包摂/南進論ブームと海軍拡張/自由民権から大陸浪人へ
第5章 宮津――議会へ行こう
天橋立と庶民の旅/帝国議会の開設/特別輸出港への指定/通商国家論と地域社会/鉄道敷設法と舞鶴線/超党派組織の限界/観光都市への回帰
第Ⅱ部 移動する人々
第6章 広島――軍隊と暮らす
軍都の誕生/日清戦争/コレラと戦争/軍隊がもたらす利益と誘致活動/日露戦争/メディアと戦争/「郷土部隊」化の推進
第7章 基隆――植民地を経営する
命令航路の開設/日清戦後経営と「海の日本」/台湾統治をめぐる混乱/後藤新平による台湾経営/地域社会の成立
第8章 神戸――故郷を離れる
ブラジル移民とカフェー・ブーム/移民送り出し港としての神戸/移民宿と移民会社/海洋国家としての米国/移民問題の顕在化/ブラジル移民の国策化
第9章 長崎――国境を越えてつながる
「出島」以後の長崎/留学先・亡命先としての日本/満洲権益と辛亥革命/長崎華僑と中華民国/日華連絡航路の開設
第10章 下関――技術が発達する
二つの水産会社――林兼商店と田村汽船漁業部/遠洋漁業の拡大/北洋漁業の展開/ロシア革命と北洋漁業/蟹工船/築港と捕鯨をめぐる競合
第Ⅲ部 拡大する都市
第11章 大阪――公共サーヴィスを提供する
商人が作った山/紡績業と築港/「政治の主役」としての実業家/小林一三と私鉄文化/都市労働者の生活/米騒動と大阪市社会事業/市営築港工事の再開
第12章 小名浜――利益をまとめる
寄港地としての繁栄と鉄道開通による衰退/政党と鉄道/官僚と港湾/利益団体による機運醸成/二大政党政治がもたらす混乱/新興企業家による工業都市化
第13章 舞鶴――国家に依存する
鎮守府と要港部/陸海軍の軍縮/三つの舞鶴町/「日本海湖水化論」と満洲事変/満洲移民の国策化/再度の軍拡と「大舞鶴」の誕生
第14章 東京――人と物を集める
掘割から埋立地へ/横浜の工業港化と京浜運河/湾岸開発と万博・オリンピック/国際観光政策の展開と日中戦争/統制経済と東京の開港
第15章 湘南――郊外を開発する
レジャーの誕生/別荘族と海水浴客/神奈川県による開発/湘南海岸の軍隊/戦後の江の島開発/築港と東京オリンピック/海路から空路へ
終章 「港町の時代」の終わり
港町をめぐる状況の変質/港町からみた政治史/融解する海と陸
【書評・紹介】
2022年度 第48回交通図書賞(第3部・歴史)受賞
●『都市史研究』(都市史学会編、2023年10月号)、新刊紹介欄 評者:高嶋修一氏(青山学院大学経済学部教授)
●『読売新聞』(2023年3月5日)、評者:金子拓氏(東京大学准教授)
●『新潟日報』(2023年1月29日)、評者:武藤秀太郎氏(新潟大学教授)
●『東京新聞』(2023年1月14日)
●『日本歴史』(2023年4月号)、新刊寸描欄に掲載
●『外交』(2023年1・2月号)
●『週刊読書人』(2023年1月6日号)、評者:崎島達矢氏(東京大学大学院人文社会系研究科助教)
●『本の雑誌』(2023年1月特大号)、「新刊めったくたガイド」評者:すずきたけし氏
●『週刊東洋経済』(2022年12月10日号)、評者:佐藤信氏(東京都立大学准教授)