匿名への情熱——政治と知的世界をつないだブレーン 楠田實 (2025年8月末刊行予定)

和田純 著
ISBN:978-4-910590-30-1、四六判上製、712頁、本体価格:3,600円

 

「知のサロン」を主宰し、愚直に政治に理念と言力を求め、現実主義の中道保守を貫いた、もうひとつの戦後政治史
 
 
佐藤栄作、田中角栄、橋本登美三郎、愛知揆一、木村俊夫、保利茂、福田赳夫、塩川正十郎、宮澤喜一、安倍晋太郎、竹下登、小渕恵三、森喜朗、福田康夫…
高坂正堯、若泉敬、梅棹忠夫、山崎正和、京極純一、衛藤瀋吉、神谷不二、江藤淳、永井陽之助、中嶋嶺雄、坂本二郎、安岡正篤、堤清二、牛尾治朗、黒川紀章、加藤寛、宮崎勇、合田周平、公文俊平、野口悠紀雄、中谷巌、粕谷一希、萩原延壽、山本正、下河辺淳、袴田茂樹、五百旗頭真、田中明彦、猪木武徳…


【著者】
和田 純(わだ・じゅん)
神田外語大学名誉教授
1949(昭和24)年生まれ。1975年慶応義塾大学大学院修了。国際交流基金のロンドン事務所長、総務部調査役、ニューヨーク日米センター(CGP NY)所長などを経て、96年に公益財団法人「日本国際交流センター」に転職し、CPO兼研究企画主幹。99年に小渕内閣の内閣官房で「21世紀日本の構想」懇談会担当室長。2000年から神田外語大学教授、2020年名誉教授。
『楠田實日記』『楠田實資料(第1期・第2期)』を編纂し、共著に『グローカリゼーション』『戦後日米関係とフィランソロピー』『現代東アジアと日本』など。


【目次】
序 章
 
第1章 原体験 
不遇な幼年期
都会での下積み生活
陸軍少年戦車兵となる
戦傷を受け、敗戦で捕虜に
沁み込む原体験
沈潜する戦争体験
〝第二の人生〟へ
政治の事始め
政治記者として人脈を築く
佐藤栄作と親しくなり、世界に目を開く
ケネディで目覚める
日本にも「ケネディ・マシン」を
「Sオペレーション」の誕生
 
第2章 「Sオペレーション」の始動 
何をするのか、だれが担うのか  
「Sオペレーション」の始動  
〝忍者部隊〟は政治記者
「ラブレター」作戦の展開
右フック、左パンチ 
「佐藤ビジョン」を構想する
盛り込まれなかった沖縄返還要求 
日中関係改善も水面下へ
トーンダウンした憲法改正
「社会計画」から「社会開発」へ
幻となった「二十一世紀局」
政局にも関与する 
画期的な『明日へのたたかい』
〝怖さ知らずの疾走〟「第一期Sオペ 」
 
第3章 「第二期Sオペ」の展開
佐藤の総裁選敗退
佐藤政権の成立と「第二期Sオペ」の開始
「第二期Sオペ」の本格化
脱皮するSオペ
井の中の蛙 
「匿名への情熱」
木村官房副長官
予兆
長期政権の母体となった「第二期Sオペ」
 
第4章 総理秘書官就任と「第三期Sオペ」
内閣総理大臣秘書官となる
総理秘書官としての戦略目標
政治に知識を導入する
TV番組「総理と語る」
沖縄問題等懇談会
沖縄返還「両三年内に」合意を
若泉敬の登場
「第三期Sオペ」の本格始動
「核抜き本土並み返還」への決断
末次一郎との距離
岡崎久彦:官僚スピーチライターの嚆矢
村田良平――外交政策企画の発足
宮崎勇――経済政策は任せる
内閣調査室と委託調査
「ケネディ・マシン」に近づく第三期Sオペ
 
第5章 政治に知識を導入する
知的世界へ踏み出す
現実主義者の登場 高坂正堯
高坂正堯からの知的刺激
識者の〝重層化〟とSオペの並立
基地研の現実主義者たち
大学紛争と社会動乱
大学紛争と東大入試中止
難航した大学立法
大学立法に関する政府声明
京極純一との出会い
新たな論客 山崎正和
新たな大学像を求めて
新構想大学案
ブレーン・トラストの形成
 
第6章 七〇年代へのパラダイム転換
沖縄返還の先へ
江藤淳の登場
転換期に問う七〇年代の国家像
新ビジョンの打ち出し
万国博を考える会
結婚を前提としない交際
万博に理念とテーマを
岡本太郎と太陽の塔
万博開会式スピーチと梅棹忠夫
梅棹忠夫との出会い
万博と通産省
パラダイム転換点としての万博
国立民族学博物館の誕生
〝時代の力〟と〝時代の要請〟
京都学派の人々
 
第7章 「政・学・官」連携ブレーンの形成
七〇年安保を超えて
未来学者の登場
未来学者 坂本二郎
政権が求めた「明るい未来論」
社会工学研究所(社工研)
国際問題研究会と「政・学・官」の連携
下河辺淳との親交
内閣調査室
内閣調査室の委託研究
内閣調査室と楠田のズレ
 
第8章 識者の〝表舞台〟への登場
国連総会と分断国家
「中国問題」への取り組み
ニクソン・ショックと国際関係懇談会の誕生
国際関係懇談会の発足
保利書簡と国連決議
悩ましい日米・日中・日台関係
沖縄の復帰と新たな懸念
ダブルトラック
〝表舞台〟への登場
粕谷一希と「中公サロン」
知的触発のコーディネーター
 
第9章 楠田人脈の確立と佐藤政権の終焉
福田赳夫との連携
「太平洋新時代」の「心と心の触れあい」
「国際文化交流基金」構想
「精神において民間の英知を結集する」
知米派リアリストの結集――国際交流基金運営審議会
佐藤退陣の引導を渡した司馬遼太郎
「猛虎、ついに檻を破る」
TV出演を振り付けた浅利慶太
天来の妙音「啐啄同機」
佐藤内閣の終焉と断絶
 
第10章 岐路を超え福田赳夫への献策「Fオペ」へ
政治の表舞台を目指す
「而学会」の創設と政治団体「楠田政治経済研究会」の登録
ニクソン就任式とジョンソンの急逝
楠田の出馬準備と葛藤
佐藤の「ノーベル平和賞」受賞
受賞記念スピーチの起草
核政策を巡る葛藤
佐藤栄作の他界と楠田の再稼働
人生の岐路――楠田の落選
「Fオペ(福田オペレーション)」の始動
楠田事務所の開設
内閣官房調査員となる
政治の理念を紡ぐ
Fオペの本格化
福田政権の退陣
再びの仕切り直し
 
第11章 「清和会」発足から「Fオペ」の終焉へ
「清和会」の結成と保利茂の死
「Fオペ」の再稼働
「四〇日抗争」
「国家戦略の研究」での自己総括
大平総理の「政策研究グループ」
表舞台に出る政治ブレーン
「ハプニング解散」と人生の岐路
国際交流基金理事長ポストの勧め
翻弄の末に非常勤理事に
二足のわらじ
 
第12章 安倍晋太郎の登場と「Aオペ」の開始
国際交流基金への政府追加出資
安倍晋太郎と「Aオペ」の始動
『晋友』の刊行と安倍総務会長への献策
自らの〝本領〟を再確認し、復活
潮目を探る
アメリカのロビイストとの出会い
水面下での日ソ接触
楠田の訪ソ
先行投資の思惑
鈴木総理の退陣表明と総裁予備選挙
不発に終わった宮澤喜一の擁立
中曽根政権の成立
内閣機能の強化
 
第13章 雌伏から「天王山」へ
仕切り直しと充填
「研究懇話会」
変化する楠田の身辺環境
中曽根政権は交代せず
「Aオペ」の再起動と中曽根総裁の再選
方向転換
政権樹立に向けての本格始動
肩透かし
雌伏からの目覚め
再びの先乗り訪米
激動する政局
安倍政権構想「新しい日本の創造」
デジャブとなった「天王山」――中曽根裁定
見果てぬ夢
 
第14章 竹下政権のもとで
安倍のために、まずは竹下にも献策する
「安竹」の距離感
国際文化交流の重要性にあらためて刮目する
動き出す「国際交流の抜本的強化」
「東南アジア大型文化ミッション」の派遣
竹下総理のASEAN演説と国際文化交流の転換
「国際協力構想」の打ち出し
「国際文化交流に関する懇談会」の設置と理念の追究
「国際交流ブーム」の到来
「リクルート事件」との交錯
国際交流基金への政府出資の再開要請
七年ぶりの出資再開
懇談会最終提言のシンボルを求めて
竹下内閣の退陣
安倍晋太郎の入院――宇野短命政権から海部政権へ
多忙を極めた楠田事務所
沈潜して時を待つしかない
 
第15章 「沖縄」の次は「北方領土」
ライフワークとしての北方領土
突破口を求めて
腹を固める安倍
慎重な外務省
自民党訪ソ団とゴルバチョフ
足踏み
リーダーシップの強化
安倍不在となったモスクワでの「日本文化週間」
不得要領の終わった訪ソ
安倍の「バックチャネル外交」
抜け駆けのアドバルーン
不発に終わった「あうんの呼吸」
失意のなかでの安倍の逝去
〝熾火〟から〝振り出し〟へ
 
第16章 グローバル・パートナーシップを求めて
最大の課題は日米関係
日米安保保障条約締結三〇周年での国際公約
新イニシアティブの誕生
「知的交流」を最重視
安倍が執念を見せた政府出資
誰が采配を振るうのか
ジャパン・バッシングのなかでの船出
問われたCGPの「オートノミー(独立性)」
鍵となった顧問と評議会
CGPの正式発足
安倍晋太郎の他界「この人在りせば・・・の思い」
 
第17章 CGPの展開・「五五年体制」の崩壊・定年退任
CGPの本格稼働と「安倍フェローシップ」の創設
弱体な日本の「民」の力
「シヴィル・ソサエティ」の発展を求めて
共鳴する〝使命〟
宮澤政権の成立・歪む日米関係
沖縄返還二〇周年
存在感を示したCGP
「五五年体制」の崩壊――変化するものは正しい。変化しないものは美しい
問われる〝限界張力〟
混沌とする政治
若泉敬『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』の刊行
最後の責務
CGPの到達点
定年退任
 
第18章 再出発
楠田事務所の再生と再編
「梅棹サロン」の発足
「海図なき日本の危険な航海」
楠田の「古希を祝う会」と福田赳夫の他界
重い口を開き始める
詫びる若泉敬
『政治記者OB会報』
総理秘書官時代の秘蔵日記
若泉敬の死
続く失意の日々
資料を紐解き、歴史と向き合う
腹が固まる
 
第19章 歴史に足跡を刻む
私家版半生記『但盡凡心』
揺れる政治への関心
『二一世紀日本の構想』懇談会
小渕政権から森政権へ
停滞する流れ
仕切り直し
「福田康夫さんを囲む会(福田会)」
『楠田實日記』の刊行
「『楠田實日記』の刊行を祝う会」
楠田事務所の閉所
晴天の秋空のもとで
 
終 章 
カタリストとしての「政治ブレーン」
最後の「政治ブレーン」
知の共同体をつくり、種を蒔く
開明的で現実主義の中道保守
「保守本流の本懐」
問われる民意
石橋湛山、寡黙で愚直、破顔一笑
等身大の楠田實